岡和田晃初の評論集『「世界内戦」とわずかな希望 伊藤計劃・SF・現代文学』、本日発売です。

 本日2013年11月6日は、『「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃・SF・現代文学』(アトリエサード/書苑新社)の発売日です。
 本書は2010年から2013年まで、岡和田晃が発表した批評を集めた本となります。2009年、私は伊藤計劃の死に直面しました。以後、その意味について持続的に考えることによって、「近代文学の終わり」や「SF冬の時代」という言葉が象徴するデッド・エンドの先に何が見えるのかを模索して参りました。
 それは、思想的な真空を開拓すべく苦闘を続ける書き手たちとのジャンル横断的な並走でもあったのですが、その過程で生み出された批評を精選して収めたのがこの本です。
 いま、文藝批評の本を刊行するのは、きわめて困難な状況にあります。ゆえに、なるべく豊かな読書体験を与えられる本にしようと、ぎりぎりまで原稿を盛り込み、その配置にはこだわりぬき、既発の原稿には「アルバム」に収める際の「リミックス」のごとく調整を加えました(当然ながら初出時の誤植は修正しています)。
 一見、雑多な書評を並べているだけのように思われるかもしれませんが、ベンヤミンの言う「星座的配置」(コンステラチオーン)を意識し、ある批評が別の批評の読み方を補完し、更に大きな洞察を与えられるような構成となっております。
 初出については、著名商業誌はもちろん、ウェブマガジンや今や入手困難なリトルマガジンなど、多岐にわたりますが、全体に加筆修正が加えられています。書き下ろしもありますよ。
 お読みいただければ、主題群と構成の意義はご理解いただけると確信しています。すでに紀伊國屋書店新宿本店からは、大型の注文をいただき、ひょっとすると平積みも夢ではないかもしれません。

「世界内戦」とわずかな希望〜伊藤計劃・SF・現代文学 (TH Series ADVANCED)

「世界内戦」とわずかな希望〜伊藤計劃・SF・現代文学 (TH Series ADVANCED)

 序文(一部抜粋)


 批評という方法を通じて、「わずかな希望」を探ること。
 対象とするテクストへ正面から向き合い、その内在的論理を的確に汲み取りながら、より幅広い文脈へと接続を試みることで、テクストという他者との対話を深め、ひいては世界に対する視座を「わずかな希望」として確保することが可能となる。批評とはひとえに、そのような営為としてあった。
 裸一貫で世界のエッジを切り取ることで、自己の省察を深める営為。世界の痛みを全身で感じ取りながら、その痛みをもたらす巨大な「暴力」へ拮抗しうる「知」を磨くこと。読者に洞察を与える創造的な挑発として、横断的かつパフォーマティヴに「知」のありかを提示し続ける営為。それが、批評に期待された役割だった。
 いささか大仰に響くかもしれない。実際、私が同時代の文学を意識するようになった一九九〇年代の後半から、「近代文学の終り」や「SF冬の時代」という言葉が、ネガティヴな共通認識として定着を見せるようになった。そうした状況を前に、なぜか批評は――少数の優れた例外を除き――しばしば無為に口を噤むか、グローバリゼーションとその亀裂から噴出する「暴力」へ屈従する道を、無自覚に選択せざるをえなかった。
 それは、批評という知のあり方に課せられた呪いだったのかもしれない。本書では、この呪いに耐えながら、閉塞した状況に対する突破口の模索を試みる。
(中略)
 とりわけ本書の大きな特徴は、SFと現代文学について並列的に論じていることだろう。あるいはミステリで語られる論理性、ゲームの双方向性(インタラクティヴィティ)にも、盛んな目配りを行なっている。それら各々に、固有のジャンル的な言説の蓄積が存在するのは重々承知している。そうした伝統を尊重し参照を重ねながらも、なお、本書に収められた仕事は、ジャンルの枠組みから一歩踏み出すことを志向している。
 本書は三部構成をとっている。第1部では、伊藤計劃とその衣鉢を継ぐ現代SFの新星たちを中心に取り上げた。第2部では、思弁性(スペキュレーション)の強度という観点から、SFと文学、フィクションと現実の境界を解体するような対象を論じた批評を集成した。第3部には世界文学的なスケールを体現しながら、現代日本では、ほとんど批評の対象とならない作品に対する批評をまとめた。とはいえ、各部ごとの区分は、さほど厳密なものではない。収録論文の至るところに、照応した問題意識が根づいている。
 また、本書に収められた批評は、掲載媒体やコンセプトワークに応じ、長篇論考、文庫解説や書評、エッセイ、インタビュウなど、多様なスタイルをとっている。個々の執筆にあたっては、各々のスタイルがもたらす効果を意識し、そのダイナミズムを活かす形で、なるべく対象作品に寄り添って、その可能性を引き出すことを心がけた。
(後略)
 本書が、あなたにとって「わずかな希望」を見出す探究(クエスト)の一助となれば、これ以上の喜びはありません。

社会現象を起こした天才・伊藤計劃の「死」へ、
最も早く、最も鋭敏に応答した批評を発表し、
第5回日本SF評論賞優秀賞を受賞した岡和田晃


その受賞から2013年までの間に発表された批評を
伊藤計劃、SF、世界文学」の3つの柱でまとめた、
80年代生まれ、博覧強記を地で行く若き論客の
初の批評集!!


SFと文学の枠を取り払い、
ミステリやゲームの視点を自在に用いながら、
大胆にして緻密にテクストを掘り下げる。
愉楽に満ちた輻輳(ふくそう)する言葉が、
あなたの知性に挑戦する!!


ぎっしり濃密な320頁です。


※(http://athird.cart.fc2.com/ca2/89/p-r-s/)より

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目次
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●序文


■第1部 「伊藤計劃以後」の現代SF――伊藤計劃仁木稔樺山三英、八杉将司、宮内悠介


●書評『虐殺器官
●「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃虐殺器官』へ向き合うために
●受賞の言葉
●二十一世紀の実存
●書評『フィニイ128のひみつ』/『ヴコドラク』/『マザーズ・タワー』
●リセットの利かないゲーム――『ハーモニー』×『マーダーゲーム』
●作家ガイド「樺山三英
樺山三英×岡和田晃 存在論的な歴史と認識論的な歴史――『ジャン=ジャックの自意識の場合』を読む
樺山三英×岡和田晃 歴史と自我の狭間で――『ゴースト・オブ・ユートピア』とSFの源流
●作家ガイド「仁木稔
●書評『グアルディア』/『ミカイールの階梯』
●「世界内戦」下の英雄――仁木稔『ミカイールの階梯』の戦略
●「サイバーパンク」への返歌、現代SFの新たな出発点――Harmony by Project Itoh
●『危険なヴィジョン』2・0――伊藤計劃The Indifference Engine』解説
●書評『屍者の帝国
●新たな時代の「世界文学」――『屍者の帝国』の射程
●「伊藤計劃以後」と「継承」の問題――宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』を中心に
●「クレオール化しそこねた世界」に希望はあるか――宮内悠介「北東京の子供たち」(書き下ろし)
●作家ガイド「八杉将司」
●八杉将司インタビュウ
●意識が消滅した者との共生は可能か――八杉将司『光を忘れた星で』を読む
●「伊藤計劃以後」と加速化する陰謀論――仁木稔「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」「はじまりと終わりの世界樹


■第2部 スペキュレイティヴ・フィクションの可能性


●書評『X電車で行こう』
増田まもるインタビュウ――日本で最も危険な“耽美と残虐の”翻訳家 (書き下ろし、インタビュウ&構成:岡和田晃宮野由梨香、コミック:YOUCHAN)
●書評『都市のドラマトゥルギー
藤枝静男とスペキュレイティヴ・フィクション
●書評『昇天する箱舟の伝説』/『RONIN』/『終わりなき索敵』
柴野拓美メソドロジー――「『集団理性』の提唱」再読
スチームパンクと双方向性(インタラクティヴィティ)――奥泉光『新・地底旅行
●「引用」という構築、重層化する旅路――『君の館で惨劇を』×『少年探偵とドルイッドの密室』
●「わたし」を動かす「マグマ」――笙野頼子『渋谷色浅川』
●書評『猫ダンジョン荒神』/『妻の帝国』
●「想像力」の脱政治化に抗して――三・一一後の「空白の120ヘクタール」『水晶内制度』『妻の帝国』
●「棄民」とは、「想定外」の産物なのか?――米田綱路『脱ニッポン記 反照する精神のトポス』を読む
●「痛み」を忘れず、信頼に足る情報を――『北海道電力泊原発〉の問題は何か』を読む
●書評『連続する問題』


■第3部 世界文学のニューウェーヴ


●言葉が紡いだ「死」の舞踊――佐藤亜紀ミノタウロス』解説
●神話的人物の生きる「場所」――『双頭のバビロン』×『ウィトゲンシュタインのウィーン』
●「思想」と「エロス」を分かつもの――歴史の表層と『醜聞の作法』
●『ヘルデンプラッツ』と神的暴力
●表象の迷宮――エステルハージ・ペーテル『黄金のブダペスト
●虚構の果ての旅路――『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし――ドナウを下って――』
●「血の復讐」は我らが隣に――ウィリアム・ピーター・ブラッティ『ディミター』
●「死」を描くゲームブック――ミロラド・パヴィッチ『帝都最後の恋』
●書評『南無ロックンロール二十一部経』
オブセッション島嶼的イメージ――J・G・バラード『楽園への疾走』の系譜学
●すべてを語り、何も語らずにいること――『人生の奇跡 J・G・バラード自伝』
●書評『abさんご』
●救済なき救済の相――《新しい太陽の書》小論
●我らの内なる怪物――ピーター・ディキンスン『生ける屍』解説
●書評『爪と目』
●生政治と破滅――トマス・M・ディッシュ「リスの檻」および『キャンプ・コンセントレーション』再考


●あとがき


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本書で取り上げられている作家・著者リスト(主な登場順)/伊藤計劃アンドレイ・タルコフスキーノヴァーリスウィリアム・ギブスン小松左京カール・シュミットフリードリヒ・シュレーゲル笠井潔巽孝之ブライアン・オールディス/リチャー ド・ローティ/ジョルジョ・アガンベン小松左京グレッグ・イーガン/千澤のり子/松本寛大/紺野あきちか岡田剛吉田親司仁木稔/J・R・R・ トールキン/L・スプレイグ・ディ=キャンプ/田中隆一/廣瀬陽子/ジョゼフ・キャンベル/カルパナ・サーへニー/P・W・シンガー/ピーター・P・パーラ/樺山三英/ダルコ・スーヴィン/八杉将司/宮内悠介/ブルース・スターリング/ジュノ・ディアス/宇野邦一/白戸圭一/飛浩隆池田雄一山野浩一増田まもる吉見俊哉藤枝静男/N・キャサリン・ヘイルズ/矢野徹フランク・ミラー谷甲州柴野拓美奥泉光/ネイダー・エルヘフナウ/ゲイリー・ウェストファール/ハリイ・ハリスン獅子宮敏彦/麻生荘太郎/笙野頼子佐藤哲也/米田綱路/鳩沢佐美夫/山城むつみ佐藤亜紀ミハイル・ブルガーコフ/イサーク・バーベリ/カール・ケレーニイ/皆川博子/エーリッヒ・ フォン・シュトロハイム/スティーヴン・トゥールミン&アラン・S・ジャニク/ドゥニ・ディドロ/ロバート・ダーントン/関谷一彦/トーマス・ベルンハルト/トーマス・マンヴァルター・ベンヤミンエステルハージ・ペーテルウィリアム・ピーター・ブラッティ/ミロラド・パヴィッチ/古川日出男/J・ G・バラード/アラン・ロブ=グリエ黒田夏子ジーン・ウルフ/トマス・ナッシュ/エルンスト・H・カントローヴィチ/ピーター・ディキンスン/藤野可織トマス・M・ディッシュ/V・E・フランクルフョードル・ドストエフスキー/ほか
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SF乱学講座の講師に岡和田晃が登場します
2013年12月1日(日)18:15〜20:15
講座タイトル/「伊藤計劃以後」のSFと現代文学 ※課題図書に本書が指定されています
会場/高井戸地域区民センター
参加費/1,000円
詳細はSF乱学講座Webサイトまで
SF乱学講座とは、前身であるSFファン科学勉強会から数えて半世紀近い歴史を持つ市民講座。誰でも参加することができます。

岡和田 晃(おかわだ あきら)
1981年、北海道空知郡上富良野町生まれ。2004年、早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。批評家、日本SF作家クラブ会員。
「「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃虐殺器官』へ向き合うために」で第5回日本SF評論賞優秀賞受賞。
近著に『向井豊昭の闘争 異種混交性(ハイブリディティ)の世界文学』(仮題、近刊)、編著に『北の想像力』(仮題、近刊)、共著に『しずおかSF 異次元への扉』(財団法人静岡県文化財団)、『21世紀探偵小説 ポスト新本格と論理の崩壊』(南雲堂、第13回本格ミステリ大賞候補)など。翻訳書に『救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション』、『失われし王冠を求めて』(ともに共訳、ホビージャパン)、『H・P・ラヴクラフト大事典』(共訳、エンターブレイン)など。文庫解説に伊藤計劃The Indifference Engine』(ハヤカワ文庫JA)、ピーター・ディキンスン『生ける屍』(ちくま文庫)ほか。〈SFマガジン〉、〈SF JAPAN〉、〈小松左京マガジン〉、〈Webミステリーズ!〉、〈季刊メタポゾン〉、〈早稲田文学〉、〈時事通信〉等に寄稿。ゲームライティングの仕事も多数あり〈Role&Roll〉等の専門誌・ウェブサイト等に寄稿、研究・実践団体〈Analog Game Studies〉代表をつとめる。著書にリプレイ小説『アゲインスト・ジェノサイド』(アークライト/新紀元社)。ポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』日本語版(近刊)に携わり、日本SF作家クラブ公認ネットマガジン〈SF Prologue Wave〉でSF作家たちとシェアードワールド小説企画を進行中。


文学フリマでの頒布光景(私は右)。ぬらりんぼがお店番をしています。