僕はRPGについての翻訳やライティングをしています。だから当然、なぜRPGを遊ぶのか、どうしたら面白く意義あるものとして遊ぶことができるのかということを常に意識せざるをえません。面白さとは何かを考えていくと、それは「面白い」ことは何かという問題、つまり価値判断という問題について吟味する必要が生じてきます。
その延長線上において、RPGについての批評があるのか、あるとしたらいかに成立しうるのか、という大きな話にも直面せざるをえないことがままあります。
ただ同時に、僕はRPGを広義の文芸の一種だと思っています。RPGとSFの関わりについては、ジャック・ヴァンスやE・C・タブやアーシュラ・K・ル=グィンの作品をゲーム化したSF-RPG、『トラベラー』を題材にし、季刊「R・P・G」誌の3号に書きました。
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しかし、僕がよく話題にする、RPGというジャンルが持つ、神話(北欧神話なりクトゥルフ神話なり)の解体・再構築のほかにも、当然ながら掘り下げられるべき課題はたくさん残っています。
一例を出しましょう。
先に書いた「私の場所、他者の居場所」という小文においては、『ゴドーを待ちながら』という戯曲と、「わたしの場所の複数」という小説の関係性について考えました。
一方で、RPGと『ゴドーを待ちながら』の間柄を考えると、「わたしの場所の複数」への考察とはまた切り口が異なり、かつ非常に独創的な視点を提示することが可能になります。
「Role&Roll」誌のVol.44には、小林正親さんによる「『ナイトメアハンター・ディープ』で創る実践・脚本術〈追跡編〉」という記事があります。
この記事は、RPGというジャンルのオリジナリティを「タイミング」と「舞台」というこれまであまり語られなかった着眼点から示した労作で、『ナイトメアハンター・ディープ』という特定のタイトルのみに留まらない、RPGというジャンルの普遍的な構造に繋がる問題をやさしい言葉で語った記事なのですが、その「タイミング」と「舞台」を考えるための導きの糸として、『ゴドーを待ちながら』が用いられています。
興味深いのは、この記事がRPGと『ゴドーを待ちながら』を接続させることで、『ゴドーを待ちながら』そのものの優れた批評にもなっているということです。
『ゴドーを待ちながら』をベタに読んでいるだけでは、当然、こんなものの見方は生まれません。批評というと、つまらない罵倒だと思われがちですが、この記事にはそうした「上から目線」もありません。むしろちょっと角度を変えて『ゴドーを待ちながら』の特性を語ることによって、今まで見過ごされてきた独自の面白さをRPGから引き出そうとしています。演劇にも、文学にも、RPGにも通じている小林さんだからこそ持ちうる、批評的な観点の勝利です。というか僕はこんな見方できていませんでした。
シナリオ・メイキングガイドとして使いやすく、RPGの構造についての独創的な分析になり、かつ戯曲そのものにも新しい視点を提示している。一粒で、三度美味しい。短い記事ではありますが、批評性というものがなければ、ここまで内容的に豊かなものにはならなかったでしょう。
出版業界が冷え込んでいるなか、批評というものはともすれば無用の長物と思われがちです。しかし、批評的な観点の用い方によっては、いくらでも作品を面白くすることは可能ですし、マーケットへ通用させることもできるでしょう。
ここでは、その可能性のひとつを提示したにすぎませんが、そうした効能そのものはもっと着目されるべきではないかと考えています。例えば翻訳も、ある種の批評性を孕みます。訳そうとする作品が何を意図しているのか、考え抜く必要があるからです。それゆえ、批評的な問題意識というものは、実はとても身近で、役に立つ話ではないかと考えています。
そして私も微力ながら、面白い作品を書き、訳し、かつ優れた批評的見地の提示ができるべく、努力していきたいと思います。アカデミックなものだという先入観で批評を敬遠している人には、損しているよ、と言っておきます。
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※「批評」と「感想」との違いは、この本がかなり詳しく突っ込んで考えています。当たり前ですが、批評>感想、あるいは感想<批評などとはなっていません。
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