「技能チャレンジ」と「ターゲットレンジシステム」の比較考察


 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版の『ダンジョン・マスターズ・ガイド』が発売されました。英語版で読むとつい読み飛ばしてしまっていたのでなかなか気がつきませんでしたが、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』は非常に優秀なマスターリングガイドになっていますね。あまりに実用志向なのでかえって驚いてしまいました。「緩急の妙」・「バランス調整」・「アドベンチャーの舞台設定」など、役立ちすぎだっつうの。
 これを読むと、『D&D』は「データの海に溺れるゲーム」という先入観はまったくの嘘で、ゼロからいかに人の創造性を刺激するか、というところに的を絞ってきていると感じました。

ダンジョンズ&ドラゴンズ ダンジョン・マスターズ・ガイド第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)

ダンジョンズ&ドラゴンズ ダンジョン・マスターズ・ガイド第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)

 さて、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』において、「技能チャレンジ」というルールが導入されました。これは、非戦闘遭遇を、技能判定を継続的に行なうことで解決するというルールなのですが、『D&D』でこれが正式採用されたことは喜ぶべきことでしょう。技能チャレンジは、プレイヤーとダンジョンマスターの作家性を引き出すシステムだからだです。


 『D&D』のように5フィート刻みのマスを一歩ずつ動いていくような精密志向のRPGの場合、手持ちの手段では展開が詰まってしまいにっちもさっちも行かなくなることが往々にしてあります。そうしたときに、技能チャレンジを使えば(ゲーム的な風味を損なわず)状況を打破することができるわけです。
 『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(2nd)の頃は、なるべく中世ヨーロッパ的なリアリズムをもって状況を捉えなおす(例:「思い返せば、ここは城だ。中世ヨーロッパでは、城の構造はこうなっている。それならば、『テンサーズ・フローティング・ディスク』を使って……」みたいな)仕組みが常でした。ただ、こうした方法はシステムという形での数理化が難しいのです。そこに「技能チャレンジ」は、一本筋の通った根幹のシステムを与えようというものでしょう。それゆえ、ユーザーの創造性は刺激されることになります。
 マスターにとっては、手軽にゲームがグダグダになるのを阻止できる、わりと福音的なシステムではないでしょうか。それゆえ「技能チャレンジ」のルールがタイトにすぎない(というか現状、コアルール環境では骨組みだけの提示に留まっている)ことは、ユーザーの創造性を刺激するという意味では成功していると思います。


 だが、この骨組みだけというのは厄介なもの。ルールの運用法を自作するという、ある種のクリエイティヴィティが肝となるだろうからです。 単にサイコロの振り方を考えるだけではなく、小さな物語論的フレーム(例えば、『水戸黄門』などでよくあるような一定のパターン)をあれこれこねくり回すのではなく、ある種、長期的な視野が要求されてくるからです。


 ここで『D&D』第4版のルールの設計思想に戻ってみると、「技能チャレンジ」はあくまでメインの問題解決手段には「なっていない」ことがわかります。基本的にサブの問題解決手段として想定されたシステムでしょうね。
 もちろん、運用次第で、「技能チャレンジ」と戦闘遭遇がともに「メインの解決手段」とりうるのは大前提です。しかしながら、一方で『D&D』第4版のルールでは、戦闘時に積極的に用いる能力(攻撃ロール、防御値、hp、セーヴ)と、技能チャレンジに使う能力(つまりは技能)がまったく別なものになっているのがわかります。
 戦闘で押し負けるとダメージを受け、そのままヒットポイントが減り、生命の危機となります。だが、「技能チャレンジ」では、大抵の場合そこまで直接的な危機とはなりません。
 いやむしろ、単にダメージを与えるだけならば戦闘でよいのでしょう。「技能チャレンジ」ではそれとは別な効果が期待されると言ってよいと思います。それゆえ、少なくともある程度慣れるまでは、戦闘遭遇よりも「技能チャレンジ」に重きを置くような前衛的なシナリオはあまり馴染まないことでしょう。


 さて、それでは「技能チャレンジ」とよく似たシステム、『ガンドッグゼロ』の「ターゲットレンジシステム」を参照してみましょう。

ガンアクションTRPG ガンドッグゼロ (Role&Roll RPGシリーズ)

ガンアクションTRPG ガンドッグゼロ (Role&Roll RPGシリーズ)

 『ガンドッグゼロ』は、「ベーシックロールプレイングシステム」の伝統を受け継いだ、技能によるパーセンテージロールを基本としたシステムです。行為判定は技能判定がベース。戦闘も技能判定を基準にして行なうことになります。つまり「技能しか使わない」。技能判定に失敗するとそれは直接、耐久力(ヒットポイント)の危機となりますね。
 それゆえ、技能判定を複雑にして可視化した「ターゲットレンジシステム」は、例えば『ガンドッグゼロ』でのスナイパー戦のように、ある程度戦闘の代替として、シナリオのメインに置くことができるわけです。
 しかも、進行が可視化できるので、ものすごく達成感がある。
 ただし、ここで難しいことがあります。『ガンドッグゼロ』は技能中心のシステム、そしてクラス制です。すなわち、初期作成の段階で、戦闘に使う技能と非戦闘時に使う技能は基本的に重なったものとなります。それゆえ場合によっては、まるで手持ちのない技能の判定をも激しく要求される「ターゲットレンジシステム」は、戦闘よりも数段厳しいものとなりかねません。脱出判定のように失敗したら今いる施設が爆発して全滅、みたいなことになっている場合は、特にそうです。
 もちろん、これは長所ではあります。「ターゲットレンジシステム」は、技能判定の進捗の度合いが、すごろく式に明快なものとして設計されているので、直観的にわかりやすいシステムになっているのです。
 それゆえ、「ターゲットレンジシステム」を適用する状況と難易度、そしてペナルティの設定には特に注意する必要があるでしょう。逆を言えば、かなりこだわりがいがあるテーマです。うまくまとまっているだけに、工夫の余地が残ります。

 
 また、「ターゲットレンジシステム」は、処理の抽象化の度合いが、「技能チャレンジ」よりも(比較的)高いように思えます。
 ぶっちゃけて言えば、潜入はポイントマップ(詳細なマップ)で2メートルずつちまちま進み、帰りはターゲットレンジシステムで判定し成功すれば脱出できるとなると……。「潜入もターゲットレンジシステムでいいんじゃね?」という極論が生まれてしまうというわけです。
 これはある意味仕方がないことです。 ポイントマップで扱う状況のシミュレートの範囲と、「ターゲットレンジシステム」が想定する状況はまったく違うのですから。ゲームが再現しようするものの性格が、ポイントマップと「ターゲットレンジシステム」では異なっているのですね。
 むしろ、「ターゲットレンジシステム」は、『D&D』の「技能チャレンジ」のような用法ではなく、コンピュータゲームで言うムービーシーンな状況に変化をもたらす際にこそ使われるべきでしょう。シミュレーションでガチガチになるゲームに、物語的な変化球を入れるにもかなり使えます(わかりやすく言えば恋愛フラグとか、時間制限とか)。
 逆に言えば、ムービーシーンを、ゲーム的に処理しつつ、RPGならではの意思決定を入れられるという「ターゲットレンジシステム」の強みというものは、セッションにダイナミズムをもたらす要因として、もっと注目されてよいでしょう。「ターゲットレンジシステム」は、システムそれ自体の完成度が高いのですから、運用のためのアイディアは、いくら提示されても不足することはありません。


 ここまで来ると、『D&D』第4版の「技能チャレンジ」のメリットがわかってきます。「技能チャレンジ」は、それこそ5フィートずつちまちま進んでいくような(ポイントマップのような)シチュエーションへ(ターゲットレンジシステムよりも比較的)「挿入しやすい」のです。
 逆を言えば、「ムービーシーン」を再現するには「技能チャレンジ」よりも『ガンドッグゼロ』の「ターゲットレンジシステム」の方が向いているのではないかと考えます。
 シナリオに「緩急」をつけるため、それこそ戦闘だけでセッションを終わらせないための、シナリオを盛り上げる素材として「技能チャレンジ」は用いられるべきでしょう。そして、シナリオの経過を大胆に書き換えるクリティカルな判定として「ターゲットレンジシステム」は用いられるべきではないかと思うのです。
 ある意味「技能チャレンジ」や「ターゲットレンジシステム」は、『ヒーローウォーズ』でまま見られる「歌姫の歌で、敵将を陥落させる」といったシチュエーションにこそ用いられるべきではないでしょうか。
 そういえば、『D&D』第4版の徹底した英雄志向は、どこか『ヒーローウォーズ』的ですし、「ターゲットレンジシステム」は『ヒーローウォーズ』の「賭け」システムに似ているところがあるようにも見えますね。


 以上、徒然と見てきたましたが、「技能チャレンジ」や「ターゲットレンジシステム」、一見似通って見える両者のシステムにも設計思想やセッションへの適合性に微妙な差異があります。そうした差異を踏まえつつ、使いどころをきちんと押さえることができれば、セッションを盛り上げられる面白いギミックとして有効に活用できることでしょう。
 逆に言えば、差し挟む勘どころを理解するには、ある程度の熟達が必要となります。しかし、『D&D』第4版も『ガンドッグゼロ』も、共にまだまだ若いシステムです。そこは慌てず、ゆっくり考えていけばよいことでしょう。僕も一ユーザーとしてそこは試行錯誤しながら少しずつ考えを進めていきたいと思っています。


 でも、はっきりとしていることもあります。これらのシステムの、よい意味でのファジーな点を強みに変えるには、背景設定や舞台となる世界観を、これまでよりもしっかりと打ち出していく必要があるだろう、ということです。『ダンジョン・マスターズ・ガイド』の記述は、「技能チャレンジ」がうまく回るようなコンセプトを考えるに格好の資料となるでしょう。
 また手前味噌ですが、「Role&Roll Extra Lead&Read Vol.4」の『ガンドッグゼロ』リプレイ「AGAINST GENOCIDE」では、『ガンドッグゼロ』と「ターゲットレンジシステム」の使い方はもとより、シナリオを練り込み、石油利権とチェチェン独立派という厄介な問題を扱うことで、「単なるアクション」を越えた面白さを追求してみたつもりです。機会があれば、ぜひ読んでみて下さい。

Role&Roll EXTRA Lead&Read Vol.4

Role&Roll EXTRA Lead&Read Vol.4