限界研(限界小説研究会)を離れることになりました。

 私は2008年から縁あって批評家集団「限界研(旧・限界小説研究会)」の月例研究会へ参加するようになり、共著『社会は存在しない セカイ系文化論』(2009)、『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』(2010)、『21世紀探偵小説 ポスト新本格と論理の崩壊』(2012)、『ポストヒューマニティーズ 伊藤計劃以後のSF』(2013)(すべて南雲堂)にて、論考やガイドを寄稿、編集協力をつとめてきました。
 また、「ジャーロ」(光文社)誌のリレー連載「謎のリアリティ ミステリ×モバイル×サバイバル」(「ミステリとSF」、「ミステリと社会史」、「ミステリとクトゥルー神話」)の執筆や「本格ミステリー・ワールド」(南雲堂)誌の座談会(2013、2014)、研究会のWeblog(旧、新)への寄稿、ジュンク堂書店でのイベント「未来を産出(デリヴァリ)するために」への出演といった活動も行なってまいりました。
 これらの仕事で私は最初の『社会は存在しない』に(全体の論調からすると異例の)セカイ系批判を寄稿した頃から――クオリティの維持向上につとめることで――いわゆる“サブカルチャー評論・オタク文化論”の狭い範疇に収まらない仕事を一貫して心がけてきたつもりであり、そのことを公言していました。そんな私を受け入れてくれた会の寛容性をありがたく思っております。幸い、共著への各種書評や、これらの仕事の一部を収めた『「世界内戦」とわずかな希望 伊藤計劃・SF・現代文学』(アトリエサード/書苑新社)へのリアクションを見るに、こうした志向性は心ある読者の方々にも通じたものと考えています。
 限界研の月例研究会は読書会と討議が中心となるのですが、例えばここで約二年をかけてカントの『純粋理性批判』を通読できたことは、とりわけ楽しい想い出となっています。多様な志向性を容認し“来る者は拒まず、去る者は追わず”といった雰囲気が限界研の特徴なので、メンバーも何度か入れ替わり、研究会にはゲストや若い(私よりも一回りほど下の)批評家志望者も積極的に来てくれていました。彼らに寄稿してもらった(私も参加している)『21世紀探偵小説』のブックガイドをご覧になれば、そうした雰囲気がよくわかります。
 ただ、身体を壊しここ一年ばかり例会の休みを余儀なくされていたこと、その前後の環境変化、『ポストヒューマニティーズ』刊行を通して一部会員との考え方の根本的な違いが鮮明になったこと、何より限界研を通して私がやるべきことはひと通り達成したと感じたこと……等の理由から、昨年末の「ジャーロ」52号への寄稿を限界研在籍中の最後の仕事とし、岡和田晃は2015年2月13日付けで会を離れることになりました。研究会メンバー、また応援をいただいた読者の皆さまに深く感謝いたします。
 念のために付言すれば、特に「転向」というわけではないので、過去の原稿内容に対し撤回はありません。いずれも自信がありますので、機会があれば、未収録のものは新著に入れ込みたいとも思っています。これからの限界研と私は別の道を歩むことになりますが、岡和田個人は執筆活動やイベント等での活動を粛々と継続してまいりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

社会は存在しない

社会は存在しない

サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ

サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ

21世紀探偵小説 ポスト新本格と論理の崩壊

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ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF

ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF