ヴコドラク


 失礼ながらノーマークの作家だったのですが、今号の「SFマガジン」のエッセイで『ダークエルフ物語』(注:フォーゴトン・レルムを舞台にした『D&D』小説)をベストに上げていたので、ぴぴっと墓場の鬼太郎のごとくRPG者アンテナの反応がして条件反射的に即注文。
 おおおお、おおおお……(興奮、鼻息)。これはすごい! 大当たりでした! 何より『ガンドッグゼロ』のWolfinaさんが表紙を書いている時点で涙モノだった。『ガンドッグゼロ』ファン必見!
 まずは筋を見て下さい。

〈ハヤカワSFシリーズ Jコレクション〉
中国と台湾の政治緩衝地帯として生まれた人工島・新台湾。人種の坩堝と化した混沌の街を跋扈する、聖なる異形者の血と暴力と運命の物語。才気煥発の俊英が描く、傑作近未来バイオレンス伝奇SF


中国と台湾の政治緩衝地帯として、また国際貿易の中継点として建造された人工島『新台湾』は、アジアの金融センターの地位を占め繁栄している。新台湾において非公式の存在である中国公安支局は、新台湾の経済安全保障に関わる猟奇殺人事件を追っていた。焼け残った遺体は、首を切断され股の間に置かれるという凄惨なものであり、現場付近では正体不明の銀色の動物を目撃したという証言もあった。事件当時、現場周辺にいたため勾留されたスロヴェニア出身の青年ロビン・スレイマンの事情聴取を進めていた女性局員・耶恵雨は、青年の瞳に自分と同じ黄色の輝きを見る。彼が釈放された翌日、新たに数人が惨殺される事件が発覚、現場には黒人の右手が残されていた――。聖なる異形者の血と暴力と祈りの物語。俊英が描く、傑作近未来バイオレンス伝奇SF。

 伝奇SFは死に絶えたかと思っていたのですが、それだけではありません。
 観念的でありながら随所に痛みを孕んだ描写が全編に横溢しており、これが素晴らしい。
 この執拗さといったら! 序盤から特に変態的(褒め言葉)な箇所を引用。

 遠すぎる過去だ。男は少年の下を自分の口の中に引き込み、同時に歯を噛み合わせる。唇とその周囲、それと舌を食いちぎられ、少年が呆然と男の目を見返す。男の唇は血まみれで、少年の顔の皮膚と一体になった筋肉が、ミミズのように蠢きながら飲み込まれる。唇がなくなり、歯茎まで剥き出しになった少年が叫ぶより早く、男は少年の頭を抱き寄せ、自分の胸に押しつける。綿のシャツに広がった染みは赤を通り越してすぐに黒くなった。
(……)

 RPG者は、よくできた『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』と『ワーウルフ・ジ・アポカリプス』のクロスオーバー小説としても楽しめると思います。
 ってか、英訳してWhite WolfかWizards of the Coastに持ってけば売れるんじゃないか!?
 まあいい、読んどけ!(いしかわさん風)

ヴコドラク (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヴコドラク (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ワーウルフ:ジ・アポカリプス日本語版 (TRPG series)

ワーウルフ:ジ・アポカリプス日本語版 (TRPG series)