ホセ・バスコンセロスはアヴァン・ポップだ!


 おかげさまで、11月7日のSF乱学講座仁木稔と語る、歴史を動かした驚異の(擬似)科学」は大好評をいただきました。
 しかも、今回は関東のみならず、神戸から後藤田一さんという若い(20代前半の)方が聴講すべくわざわざ駆けつけて下さいました。
 彼が(講座の中で言及された)ホセ・バルコンセロスについて所感を書いて下さいましたので、本人の許可をいただいたうえで、彼の熱気に満ちたレポートを転載させていただきます。

 ホセ・バスコンセロスについて名前が出た際に、聴講していた草場純さんが「素晴らしい思想じゃないですか」と発言されていたのが印象に残っています。

 ドタバタしとりました。SF作家の仁木稔さんの講座があるというので11月7日に東京に行ってきました。
 講座のレポートとか、国立西洋美術館アルブレヒト・デューラー展とか、神保町に乗り出した成果とか、色々書く気満々なんですが、何よりも書きたいことが出来てしまった。
 講座の中で紹介されたホセ・バスコンセロスっていうメキシコ革命時代の頃に文部大臣やって大統領候補にもなったオッチャンなんですが、この人の「ラサ・コスミカ La raza cósmica」っつう論文が凄いのよ。razaは人種、cósmicaは久遠・調和など。ちょっと検索したら「普遍的人種」と訳すのがベターみたい。まぁ学術論文なら穏当なんだろうけど、この論文の内容からすりゃ、講座で配られた高橋均氏が訳した「宇宙的人種」(『現代思想臨時増刊 総特集 ラテンアメリカ 増殖するモニュメント』1988)の方が絶対に良い。
 まぁ引用した方が分かりやすいと思うので冒頭を引っ張ってきますと、

「人類史は今日に至るまで、四つの支配的な人種の交代を経てきた。最初に黒人種が南方のレムリアと呼ばれる文明を築き、次いで、今日アメリカ原住民と呼ばれる赤い膚の人々がアトランティス文明を築き、次いで黄色人種中華帝国を築き、そして今日、ヨーロッパから拡大した白人種が世界を牛耳っている。人類史に組み込まれた神の計画によって、第四の支配的人種である白人種は、第五の全世界的な人種、宇宙人的人種に続く架け橋としての役割を負っている。そして、この宇宙的人種を生み出すために、ラテンアメリカは重大な使命を帯びた地域なのである。」

 のっけからこれですよ。こんな調子でざっと百枚ほど続くらしい。(高橋均氏のものは残念なことに抄訳なので、全文)ちなみに講座内で仁木さんが朗読したんだけど、爆笑が起こった。
 いやまぁただのトンデモ理論なら笑ってそれで終わりで構わないと思うんだけど、この人のマニフェスト民族主義にもラマルク主義にも堕ちることなく高らかに飛翔する論理展開が行われるのだ。まぁ要点はつまり優生学的にアングロサクソン系の人種・文化至上主義が当然視されている風潮への反発から「混血こそ至上」という方便をひねくりだして来るわけなんですが、この論文見る限り、んな口先だけの方便以上の荒々しさを感じずにはいられない素敵な論文でございます。

「熱帯の征服は、生活のあらゆる側面を変貌させる。建築は、アーチを放棄し、穹窿を放棄し、とにかく屋根というものをいっさい放棄する。屋根は暖を取る必要からできたものだからだ。ふたたび、ピラミッドが発達する。列柱が、実用性なく、美観を見せ付けるためだけに建造される。そしておそらく巻き貝状の建築は建てられる。なぜなら、新しい美学は、螺旋の限りない曲線に形を合わせようとするからだ。螺旋が表現するのは自由な憧憬、無限の征服における人間の勝利だ。色彩と律動のみなぎった景観は感情の豊かさを伝達し、現実はファンタジーに似たものになるだろう。」

 これがアヴァン・ポップでなくて一体何がアヴァン・ポップか!
 私はこの文章の誇大妄想さに、そのヴィジョンの野放図さに不覚にも感動しそうになったよ。「しかし問題なのは、怪物じみた魂を作り出すことなのです。」とアルチュール・ランボーは言った。その「怪物じみた魂」がこのおっちゃんにもあったのだと僕は確信する所存であります。
 他人の退屈な紋切り型のイメージにとらわれるな、下らないイデオロギーの連想に巻き込まれるな、そいつらを好き勝手にサンプリングし、着色し再物語化し、新しい「科学」を構成してガンガン垂れ流せ!
 という感じで読んでると元気が出てくる論文でございましたことよ。


(後藤田一)