児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』第2版のソロアドベンチャー「盗賊都市からの逃亡」リプレイ

 おなじみ作家の齊藤飛鳥さんが、今度は『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』第2版のソロアドベンチャー「盗賊都市からの逃亡」(作:友野詳、「ウォーロック・マガジン」Vol.7掲載)のリプレイを書いてくださいました。

 同号所収の「ソーサラー・ソリテア完全版」のリプレイとともに、お愉しみいただければ幸いです。なお、「盗賊都市からの逃亡」の核心にふれる内容となっているので、ご承知のうえでお読みください。

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『イグリカの盗賊都市からの逃亡』
~『盗賊都市からの逃亡』リプレイ~

著:齊藤飛鳥

 

ウォーロックマガジンvol.7

ウォーロックマガジンvol.7

  • 作者:安田 均
  • 発売日: 2020/05/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

0:プロローグ

 我が名は、イグリカ。
 誇り高きドワーフの女戦士だ。
 このたびの我が任務は、ドワーフの小国の王子デルガド・アイアンファイア殿下をサラモニスという町まで護衛すること。
 我々は小さな帆船を丸ごと借り、船で出航。
 これで、海路に敵に襲われる心配はなし。
 憂慮すべきは、上陸してからだ。
 心して王子を護衛せねば……。
「はいよ、イグリカ。夕食だ」
 船の料理人が我の前に夕食の皿を並べる。
 オムライスの木こり風とは、我の大好物ではないか!
「うむ、絶品ぜっ…」
 妙だ。
 急に眠気が襲ってきた。
 これはもしや、眠りぐす……。


1:船の牢屋

 船の牢の中で目が覚める。
 どうやら、眠り薬をもられたらしい。
 船員の中に、敵の手先がいたか。
 そして、王子はいない。
 おのれ、これしきのことで、このドワーフの女戦士イグリカが王子の護衛任務を諦めるとでも思うたか。
 必ずや王子を救い出し、うぬらのあやまちをその命で償わせてやる。
 さしあたって、ここから脱出するのに役立つものはないか。
 ないな。
 仕方あるまい。
 力こそ最高のマスターキーだ。
 ふんっ!
 我の体当たりに耐えきれず、牢の格子は断末魔の叫びじみた騒音と共にはじけ飛ぶ。
 これでよし。
 むぅ、正面にも牢屋がある。王子か船員が囚われていりやもしれぬ……うっ、臭い!
 このような粗相を踏むとはついていない。
 だが、くじけている場合ではない。
 次は、右の牢を調べよう。
 幸い、こちらの牢も開けっ放しだ。
 片隅に船員達の服が積まれている。
 壁には「俺たちと王子はマーケット広場で奴隷に売られる。手ごわそうなあんたは後回しにされたようだ。無事を祈る」との伝言が刻まれていた。
 うぬらの祈りは確かに届いた。
 安心せよ。戦士の誇りにかけて、王子だけでなく、うぬらも救い出す。
 さて、服の数と伝言から察するに、裏切り者の船員は一人のようだ。
 見つけ次第、生まれてきたことを後悔させてやろう。
 そのための武器になりそうな物はないか……あった。
 ダガーか。
 手ぶらよりはましだ。もらっていこう。
 いよいよ、左手側の扉を調べるか。
 扉に鍵はかかっておらず、そっと開けると、明かり取りの小さな窓と潮風。
 やはり、ここは船の中だったか。
 潮風に混じり、雑踏の声が聞こえる。
 港に停泊しているようだ。
 これで、現在我のいる所がわかった。船首の方向からして、現在地は右舷の通路だ。
 船尾側には扉がある。
 船番がいるかもしれん。
 王子の行方を吐かせよう。
 我は、扉へと向かった。


2:海賊船の右舷と船尾

 我の近づいた扉は、少し隙間が開き、肉を焼く匂いとスパイスの香りがする。料理をしているのだろう。
 中をうかがうと、やはり台所だった。
 料理をしている大柄な男の後ろ姿、見覚えがある。
 我々が乗っていた船の新入り料理人だ。
 こやつだけ無事ということは、裏切り者はこやつに間違いなし。
 ならば、こっそり忍び寄って不意討ちするのみ。
 忍び歩きの訓練はしていないが、それごときでひるむ我ではない。
 我は、先程入手したばかりのダガーを構えると、音もなく料理人の背後に立ち、不意討ちを食らわせる。
 しかし、一思いには殺さない。
 こやつには、きくことがある。
「王子と船員達をどうした?」
 瀕死の料理人に、我は問う。
 最初こそ秘密を胸に死んでいくと啖呵を切っていた料理人も、ダガーで体中の肉をそぎ落としてやるうちに気が変わったらしい。
「王子や船員達は、奴隷として売られる」
 それが料理人の最期の言葉だった。
 すでに我の知っている情報だ。
 たいした情報も提供できぬとは、こやつはおのれのあやまちに対する償いも果たさぬまま死んでいったか。
 どこまでも見下げ果てた男よ。
 台所をよく見ると、料理人が使っていた大包丁を発見。
 斧代わりに使えそうだ。
 大包丁を素振りした後、鍋の中に料理が入っているのを見つける。
 食べた。
 ドワーフ料理ではなく、食えた代物ではないが、空腹の今、戦士として、何でも食らって体力の回復に務めるべきだ。
 腹ごしらえできたら、水があるのに気がついた。
 ありがたい。
 これで体についた臭いを落とせる。
 では、台所を出る前に料理人を調べるか。
 こやつ、腰のベルトに鍵束をつけている。
 何かに使えるかもしれん。
 もらっていこう。
 では、料理人。これでうぬは完全に用なしよ。海底で魚の餌となり、少しは生きとし生けるものの役に立て。
 我は、料理人を水葬にしてから、右舷側の通路に出た。
 そこから、船首側の階段を上がる。
 甲板に出た。
 誰も見当たらない。
 帆に描かれたドクロの絵からして、この船は海賊船のようだ。
 このまま船を下り、王子達を助けに港に行くのもよいが、今の我は服しか着ていない。
 服すら奪われた船員達にくらべれば、幾分よいが、それでも戦いとなった時に装備が薄いのは心もとない。
 ここは、戦いに備え、もう少し装備を調達すべし。
 我は、左舷側に下りた。


3: 海賊船の左舷

 左舷側通路が着く。
 台所はすでにのぞいたからよいとして、「絶対にノックすること」とかいてある扉は罠がありそうだから、後回し。
 まずは、頑丈そうな扉を開けよう。
 鍵がかかっているのか。
 ならば、料理人から調達した鍵束を使い、開けるとしよう。
 開いた。ここは倉庫か。
 ありがたい!
 我の愛用の皮鎧ではないか!
 武器は売り飛ばされたのか見当たらないが、防具を取り戻せたのは幸先がいい。
 これで、武器も防具も装備できたから、罠があっても戦える。
 次は、ノックの必要な扉を開けてみよう。
 指示どおり、扉をノックする。
 その瞬間、体長1メートルに満たない守護デーモンが現れた。
「船長室に何の用だ? 金庫には絶対触らせないぞ!」
 別に我は金庫になど用はない。
 適当に言いくるめ、この場を立ち去るか。
 待てよ。
 ここから離れるだけなら、ついでに船長の所在をこやつに尋ねるか。
「船長はいずこにいるのだ?」
「船長なら、手に入れた奴隷を売りに行った。どこに行ったか知らない。金庫には触らせないぞ」
「そうか。よくぞ教えてくれた。これが礼だ」
 最初は見逃してやろうと思ったが、金庫番だけでなく、奴隷売買に与していたとあっては、かける慈悲など無し。
 我は、守護デーモンを一撃のうちに大包丁で屠る。
 守護デーモンを倒した後、船長室を調べる。
 机の上に、メモがある。
「ガブラク
「赤ワインを手土産に」
「マーケット広場の競売を主催」
 やはり、マーケット広場に王子達はいるようだ。
 金庫は気になるが、武器を犠牲にしてまで開ける気にはなれん。
 それより、今は一刻も早く港に下りたい。
 我は、港に下り立った。


4:港

 港は、様々な商船や漁船に混じり、武装した船が目立つ。
 港を行き来する輩も、がらの悪そうな男が多い。
 そうか。
 ここが噂の、悪名高き盗賊都市ポートブラックサンドか。
 大陸中から犯罪者どもが集う街だ。一刻も早く王子達を見つけて脱出せねば。
 まずは、マーケット広場を探そう。
 とは言え、弱った。
 我は、盗賊都市の地理を知らぬ。
 ここは、街の事情に詳しいものごいにマーケット広場がどこにあるか訊いてみるか。
「姐御、通行証はお持ちで?道案内なら、あっしよりも酒場でガイドを雇いなせえ。奴隷競売? 元締めは、ガブラクって男です。ところで、こっちをじっと見ている剣呑そうな姉ちゃんは知り合いで?」
 いったい、誰だと思うより早く、ドワーフの女戦士が声をかけてきた。
 ヒゲの刈り込みからして、同じ氏族か。よかった。
「あたしは、カルデラ。君は?」
「我が名は、イグリカ」
 名乗ってから、我は同じ氏族の女戦士のよしみで、カルデラにこれまでのいきさつを打ち明ける。
「大変だね。なんなら、あたしが代わりに探そうか?」
「申し出、とてもありがたい。だが、これは、我の任務。戦士の誇りにかけて、おいそれと頼めぬ」
「そう? だったら、一人で王子達を救える力があると証明してみせて」
「承知した」
 我は、カルデラの前で街路樹を引き抜いて見せる。
「それだけ力があれば、王子達を救えるね。探しものなら、歌う橋の下に住んでいるニカデマスって魔術師に相談しな。怪我したら、マーケット広場の近くにある正義が女神リーブラの神殿に寄るといいよ」
「かたじけない。いつか必ずや、この恩は返す」
 我は、カルデラに礼を述べたのち、王子達の行方を知るべく、ニカデマスなる魔術師を訪ねることにした。


5:ポートブラックサンド

 歌う橋の下に住むという、ニカデマスの家を目指す。
 黒く淀んだ川に、白々とした人の腕が、波に揺られながら浮き沈みを繰り返して流れてゆく。そのさまは、この盗賊都市のありようを彷彿とさせる。
 歌う橋の下の、橋桁に組みこまれるようにして建てられた木の小屋を見つける。
 ここが、ニカデマスの家か。
 我が近づくと、先に扉が開く。
 厳しい目つきをした、白く長いひげの老人が顔を出す。
「魔法使いニカデマスに何か用か。わしはもう、人助けはやめたのじゃ。誰か紹介者がおるのか?」
ドワーフの女戦士カルデラからの紹介だ」
「うぅうぅ……」
「呻き声を上げるとは、どこか具合が悪いのか、御老体?」
「違うわ! ちと、カルデラのことを思い出し、呻かずにはいられなくなっただけじゃ!」
カルデラよ、ニカデマスが呻かずにはいられなくなるとは、過去に何をやらかした…?
「あと、わしはまだまだ若い! 御老体言うな!」
 そう念を押してから、ニカデマスは我に芸人ギルドへの届け物を言いつけた。
 曰く、届け物の過程で探しものに出会うとのこと。
 この御仁には、予言の力があるのだろうか?
 我が尋ねるより先に、ニカデマスは不思議な形の棍棒、トランプ、ツボを我に預ける。
 そして、金貨50枚を先払いでくれた。
 ありがたい。王子達を救う軍資金にしよう。
 我は、芸人ギルドへ急いだ。
 近道に細い路地に入る。
 そこで、オークの追い剥ぎが現れた。
「お前、橋の下から出てきたな。あの爺が作っているイカサマ用トランプを持ってるだろう。よこせ!」
 なるほど、だからニカデマスは我に届け物を頼んだのか。
 トランプをこやつにくれてやってもいいが、引き受けた任務をまっとうしてこそ、戦士という者。
「うぬにやるものなどない。ほしくば我を倒すがいい」
 我は、大包丁でオークの追い剥ぎをたたっ切る。
 口ほどにもない。
 赤い雨の後、オークの頭が路地に転がっていった。
 オークの体をあさると、金貨50枚があった。
 これが、追い剥ぎの命の値段か。
 安く使い果たされた、うぬの命が哀れなものよ。
 だが、うぬの金は王子達を救う軍資金にまわすので、無駄にはせん。
 我は、芸人ギルドへと急いだ。
 芸人ギルドに着くや、マーケット広場にいる大道芸人たちへ、さらに届け物をしてほしいと言われ、道を教わる。
 ついに我は、マーケット広場の場所をつかめたぞ!
 だが、その前に届け物だ。
 ツボは罪人への卵ぶつけに使うそうだ。棍棒は力自慢芸人に、トランプは手品師が使うらしい。
 とにかく、彼らにこれらの物を届けなくては。
 いざ、マーケット広場に行くぞ!
 すると、我の気勢をそぐように、芸人ギルドにいたゴブリンが話しかけてきた。
「その棍棒ベイズボール用のだろ?ちょっと足りないんだ。貸してくれないか?」
「すまぬ。これは預かり物ゆえ、我の一存では決められぬ。失礼」
 我は断ると、教わった道順をたどり、マーケット広場を目指した。


6:マーケット広場

 マーケット広場は、多くの屋台が並んでいた。大道芸人がおり、多くの取り引きが行われている。
 遠くの人だかりで競売をやっているのは気になるが、まずは頼まれた届け物をせねばならない。
 ニカデマスの話では届け物をする過程で探しものに出会えるとのことだから、届け物をしないと王子達に出会えない恐れがある。
 まずは、卵ぶつけにいる老婆へ、ツボを届ける。
 老婆は、報酬としてまじない屋の半額券をくれた。
 魔法を使えない戦士である我には、ありがたい代物だ。
 次に、力自慢芸人のもとへ棍棒を届ける。
 棍棒で球を打って遠くに飛ばす芸を披露していた。
 客も挑戦でき、力自慢芸人に勝てば、金貨100枚を得られるとのこと。
 王子達を救う軍資金は少しでも多い方がいい。
 我は、運んできた不思議な形をした棍棒を使って挑戦する。
 斧を使う要領で棍棒を振る。
 打たれた球は、力自慢芸人より遠くに飛んでいった。
「やるじゃねえか!」
 力自慢芸人は、ニカデマスの新しい棍棒の性能もこれでわかったと言いながら、気前よく金貨100枚を支払ってくれた。
 そこへゴブリンが近づいてきた。
「ねえちゃん、凄いな。俺たちとベイズボールをやんないか?」
「すまぬ。まだ届け物があるのだ」
 我は誘いを断り、最後の届け物であるトランプを手品師へ届けに走った。
 手品師に、新しいトランプを届ける。
 このトランプを狙う輩がいたと告げると、手品師は謝罪し、近くの賭博場で使うつもりだったのだろうと言う。
 手品用のトランプをイカサマ用に使おうとは、盗賊都市らしい話だ。
 さて、届け物はすべて終えた。
 軍資金もある程度できた。
 ここは、王子達を救う前に必要な物を買いそろえよう。
 我は、買い物の屋台へ向かう。
 現在の我の所持金は金貨200枚。
 交易の技能を使い、2割引きすれば、最低限の物が買えそうだ。
 まず、バトルアックスとブレストプレートを2割引きの金貨80枚で購入。これで残金120枚。
 まじない屋の半額券があるから、まじないも買っていこう。
 ここで買えるのは「大きくなるまじない」と「小さくなるまじない」か。
 敵を小さくして倒せそうだから「小さくなるまじない」を買おう。
 値段は金貨200枚。半額券を使って金貨100枚。そして、交易で2割引きで購入。よし、値切り成功。これで残金40枚。
 最後は、誘拐され、奴隷として売り飛ばされ、さぞや怖い思いをしている王子を慰めるために、金貨10枚でおもちゃを購入。交易を失敗。これで残金30枚。
 さあ、必要な物は、そろえられた。
 人だかりのできている競売へ、いざ行かん!
 我が人だかりに加わると、人だかりの中央では奴隷売買が行われていた。
 檻の中で待機している奴隷達の中に、見慣れた姿がある。
 元の船の船員たちだ!
 警備が厳しいせいで、救出ができず、もどかしいが、我は檻ごしに話しかけた。
「うぬらの祈りが通じ、我は無事だったぞ!」
 たちまち、船員達が顔を明るくする。
「無事だと信じていたぜ、イグリカ!」
「おまえが無事なら、希望がある!」
「一刻も早く王子を救ってくれ!」
「王子さえ無事なら、王家の富と権力で、俺達はすぐに奴隷から解放されるからな!」
「王子の救出が成功するよう、神殿に立ち寄って正義の女神リーブラの加護を祈るんだ!」
「王子は先に売られ、何かの競技に使うためにスポーツ場に連れて行かれたぞ!」
 船員達は、ある者は我をいたわり、ある者は助言をくれる。
 こんなに気持ちのいい彼らを十把一絡げに金貨1000枚で売り飛ばそうとは、奴隷商人は人を見る目がない。
 いつか、血反吐をぶちまけさせ、犬の餌にしてやりたいが、今は王子を救うのが最優先。
 我は、加護を祈るために神殿へと向かい、正義の女神リーブラに祈りを捧げた。
「公平さを守り、弱者を救う神よ。どうか、幼き王子を救う力を我に与えたまえ…」
 熱心に祈りを捧げていると、天秤のような髪型をした少女司祭が近づいてくる。
「わたしの名は、メルタ。正義の女神リーブラ様の司祭を務めております。先程からあなたが熱心に祈られているご様子を拝見していました。何かわけがおありなら、お話をうかがいましょう」
 憤懣遣る方ない実情を打ち明けると、メルタは憤慨し、街から脱出するルートを探しておくと申し出てくれた。
 こんな盗賊都市だが、悪に染まらぬ人間もいるものだ。
 心安らぐのを感じつつ、我はスポーツ場に走った。


7:スポーツ場

 日暮れの迫る中、ポートブラックサンドの人気競技ドワーフスローイングが始まった。
 トロールが、ドワーフをボール代わりに痛めつけ、敵のゴールに運びこむ競技だ。
当然、ボール役にされるドワーフの命はない。
 今日のボール役は、王子だ。
 ドワーフの種族を代表し、このゲームの考案者も、嬉々として観戦しに来ている客どもも、一族郎党すべて八つ裂きにして根絶やしにしてやりたいが、今は王子を救出することに集中しよう。
 腹立たしいことに、観客席は満席。
 何とかして、最前列の席を確保し、試合が始まったらすぐに王子を助けに駆けつけるようにしたい。
 だが、観戦チケットなど持っていない。
 そうだ。
「小さくなるまじない」を自分に使えばいい!
 そうすれば、観客席の最前列に紛れ込める。
 我は「小さくなるまじない」を使った。
 そして、観客らに踏まれないよう、最前列に忍びこむ。
 ここからなら、グラウンドに近い。
 機を見計らい、試合のさなか、きゃつらから王子を奪い取り、逃げるしか王子も船員達も救う道はない。
「プレイドワーフ!」
 審判の合図と共に、王子が優雅な弧を描いて宙を飛んで行く。
 選手が王子を受け取り、味方に投げ渡しながら敵のゴールを目指すところだが、渡された選手が受け取りそびれた。
 おかげで、王子は地面に転がり落ちる。
今だ!
 我は、「小さくなるまじない」を解除するや、グラウンドへ躍り出る。
「王子、助けにまいりました!」
 我は、痛みを必死にこらえて苦しむ王子に呼びかけると同時に抱え上げ、一心不乱にスポーツ場の出口を目指して駆け抜ける。
 観客達は、トラブルも娯楽のうちとばかりに歓声を上げる。
 そして、選手達が次々に覆い被さってくる。
「散れ散れ!」
 左右にステップをきかせる。
 ゾロ目級の会心のステップを繰り出した我は、覆い被さってくる選手達をすべてかわし、グラウンドの外に出た。
 スポーツ場を飛び出し、ひとけのない場所にたどり着く。
「殿下、よくぞ耐えられました。どこか痛むところはございませんか」
「イグリカよ。余を誰と心得る? ドワーフの王子ぞ。あれしきのこと、痛くもなんともないわ」
 よかった。
 あれだけの目に遭ったのに、強がるだけの気概が残っている。
 安心しかけ、まだ自分達が盗賊都市の中にいることを思い出した。
 早いところ、王子を目的地に送り届け、船員達を買い戻せるよう取り計らってもらわねば!
 だが、このポートブラックサンドから脱出するには、誰かに力を借りねばならぬ。
 信頼できる者と言えば、カルデラだ。
 同じ氏族の戦士のよしみで、王子の救出を申し出てくれた彼女なら、信頼できる。
 我は、王子を連れてカルデラのいる港に行った。
 カルデラは、すぐに見つかった。
「王子を無事に救出できたんだ。よかった。すると、次に必要なのは、脱出する足だね」
さすが、我と同じ氏族の戦士。話が早い。
「かたじけない。助かる、カルデラ
「何を水くさいことを言っているの、イグリカ。同じ氏族の戦士同士、助け合うのは当然だよ」
 カルデラは笑ってから、冒険商人のオットーなる御仁を紹介してくれた。
……眼帯と義足で、肩にはペットのオウムが止まっているとは、見るからに海賊のようだ。
 だが、カルデラが紹介してくれた御仁だ。信用しよう。
「うぅうぅ…船に乗って、この街を出たいんだってな、お二人さん。他ならぬカルデラの頼みだ。引き受けるぜ」
 オットーは、ニカデマスのように呻き声を上げつつ、承諾してくれた。
 カルデラよ。うぬは、彼らと過去に何があったのだ……?
 何はともあれ、これで盗賊都市から脱出する目算ができた。
 旅も、船員達の救出も、これからが本番だ。
 我は、王子と共にオットーの船に乗りこむ。
 白い帆が力強く風をはらみ、我らを悪名高きポートブラックサンドから連れ出してくれた。

 

 (完)

 

 ※齊藤飛鳥さんの待望の新作「弔千手」が「ミステリーズ!」Vol.101に掲載されています。本作ともまた異なる流麗な文体、意外な展開の妙に驚いてください!

ミステリーズ! Vol.101

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