『ウォーハンマーRPG』リプレイの成長について

※2010年10月18日追記:本エントリで記述したルール適用の際のハウスルールについては、ウェブ上での再掲がなされた際、「おことわり」という形で、但し書きを加えさせて頂きました。

http://www.hobbyjapan.co.jp/wh/gamejapan/index.html

http://www.hobbyjapan.co.jp/wh/gamejapan/pdf/gj_2008_08.pdf

 さて、『GAME JAPAN』9月号にて無事完結のはこびとなった『ウォーハンマーRPG』の連載リプレイ「混沌狩り」ですが、読者の方からルール適用についてのご意見をいただきました。
 それは『GAME JAPAN』8月号に掲載されたリプレイ第2回「尽きぬ悦楽」において、プレイヤー・キャラクターの1人である魔狩人コンラッドが成長作業を行なった際に、《肝っ玉》の異能を取得していたことが、キャリア満了の前提条件を満たしていないのではないか、というものでした。


 つまり、魔狩人は上級キャリアであり、上級キャリアに就くためには、前提となるキャリアを満了していなければなりません。
 コンラッドが魔狩人になるための前提キャリアは吸血鬼狩人であり、吸血鬼狩人は《肝っ玉》の異能をキャリア異能として所持しています。魔狩人の時点で《肝っ玉》を取得しているということは、すなわち吸血鬼狩人時の「満了」が不充分だったのではないか、というご指摘をいただいたというわけです。


 以下、ライターとしてどう考えていたのか、説明責任を果たすため、補足的に見解を書かせていただきます。


 『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』のP.29には、キャリア満了についての記述が掲載されています。それを読むと、一例として、以下のように多様な解釈を導き出すことができます。

・解釈A:能力値・技能・異能をすべて埋めなければ、基本条件2つ(所持品・経験点100消費)を満たしていたとしても、キャリア満了とは言えない。
・解釈B:基本条件2つ(所持品・経験点100消費)に加えて、能力値・技能・異能をすべて満たす必要がある。だが、例外的に、スラッシュマークで区切られた二者択一系の技能・異能を取得しなくてもキャリア満了はできる。
・解釈C:成長表で提示された能力値を限界まで伸ばし、基本条件2つ(所持品・100xp消費)を満たせば、特に技能・異能を取得せずとも、キャリア満了は可能となる。
・解釈D:能力値・技能・異能の成長は、基本条件2つ(所持品・100xp消費)を満たしてさえいれば、キャリア満了と一切関係ない。

 しかし、ここで問題があります。
 解釈Dではあまりにも条件が軽すぎて問題だということは容易に予測がつきますし、「200xpを消費して『次のキャリア』に示されていない基本キャリアへの転職」という条件の意義が薄くなります。
 ですが、一方で解釈Aはあまりにもタイトにすぎ、成長に伴なう取捨選択の幅が少なく、若干プレイの興を殺いでしまいそうにも見受けられます。
 残りは解釈Bと解釈Cとなります。
 ここで、『ウォーハンマーRPG』日本語版公式サイトで提示されている見解を確認してみましょう。

■転職(キャリア変更)の条件
主要、副次プロフィールが、現在のキャリアの成長限界まで成長している。
現在のキャリアの技能と異能をすべて取得している。(取得に選択肢がある技能/異能は、選択肢のいずれかの取得でよい。)
新たになろうとするキャリアの所持品がそろっている。
 上記がそろったキャラクターが100xpを支払うことで、現在のキャリアの「次のキャリア」に提示されているキャリアに転職ができます。新たなキャリアとなったキャラクターは、キャリアを変えた時点では取得していない新たなキャリアの技能/異能を、今後の成長で取得していくことになります。
 これ以外のキャリアの変更手段については、基本ルールブック31ページ「次のキャリアについてのオプション」に述べられています。

 これで見ると、正解は解釈Bとなり、誤解の余地はありません。
 しかし、私はあえて、基本的に解釈Bのラインでキャラクターメイキングを行ないながら、部分的には解釈Cをも導入するという変則的な措置を行なっておりました。
 というのも、「『GAME JAPAN』誌のリプレイのコンセプトは『ストーリー重視』で行く」と決めていたからです。そのためプレイヤーも、人文的な素養に溢れ、広範な知識と豊かな表現力を有した方々を集め、質の高いセッションが行なえるように配慮したのでした。


 多くのRPGと同じく、『ウォーハンマーRPG』においても戦闘は重要なファクターとなります。
 ただし同時に『ウォーハンマーRPG』は、戦闘と同じくらい、世界観の奥深さを探り知的な刺激を得ることができるRPGでもあります。
 そして、世界観の魅力を引き出すためには、世界観をきちんと押さえたうえでのストーリープレイの実例を提示することこそが、何より重要となるのではないかと考えた次第です。紙幅もセッション回数も限られている以上、コンセプトを絞るのが大事であると思ったのです。
 現に、「魔力の風を追う者たち」においても「混沌狩り」においても、ストーリーは練りに練ったうえ、いわゆる「ゲームマスターからの押し付け」のみに陥らないように気を配りました。
 とりわけ『ウォーハンマーRPG』世界の鍵となる「混沌」については、さながらスピノザ的とも呼ぶべき汎神論的な性質を前面に押し出すべく、「ナーグルだけ」「コーンだけ」「スラーネッシュだけ」とはならないよう、料理の仕方を工夫しました。結果、禍つ神々に属する諸勢力が入り乱れる、群像劇とも言える形を採用した次第です。


 群像劇志向、というのはプレイヤー・キャラクターについても同様で、「誰か特定の1名のみが『主人公キャラ』としてスポットライトが当たり、残りは黙って傍観しているだけ」といった形にならないよう、マスタリングには注意を払いました。
 プレイヤーもマスターの意を最大限に汲んでくれ、実に生き生きと、「4人のプレイヤー全員が主人公」となるよう、しっかりと活躍してくれたと思います。
 そして、あくまでも世界観をきちんと押さえたうえでの「ストーリー」と「ロールプレイ」を通じたキャラクター表現との関わりに重きを置いた結果、リプレイ収録のためのセッションを開催するにあたり、「キャラクターを表現しようとする意欲」と「ルール的側面を墨守すること」とが相克してしまった場合においては、ぎりぎりのラインまでルールを守ったうえで、最終的には後者を優先する場合も設けよう、と考えたのです。


 そして私は、プレイヤーにキャラクター創造をお願いした際に、あらかじめ「こういったキャラクターを創りたい」というプレイヤー本人の意見を聞き、そうした希望をできるだけ反映させたいと考えることとしたのです。
 まずは、サンプルとしてキャラクターのデータの提示を求めました。その際、「吸血鬼狩人」という過去を設けるということは、コンラッドというキャラクターにとって重要なので、なるべくうまくキャラが立てられるような成長処理を考えた次第です。


 そもそも『ウォーハンマーRPG』は、いわゆる『d20システム』のサプリメントを数多く製作しているGreen Ronin社がシステムデザインを担当したRPGです。
 『ウォーハンマーRPG』は、『d20システム』の影響を強く受けながらも、移動のルール、戦闘ルールの一部、恐怖と恐慌のルール、【運命点】の活用法、その他の設定の活用法の多くにおいて、ゲームマスターの創造性、あるいは裁定に委ねられている側面があります(そういえば、『ウォーハンマーRPG』の初版は、『クラシックD&D』の影響が色濃いものの、同様にGMの創造性を重視したものが多かったように思います)。
 これは、あまりにも膨大なルールが存在するため、ともすれば汗牛充棟極まるものとなってしまいがちな『d20システム』の問題点(もちろん、ルールの山を掻き分けて行くのは、それ自体がこのうえない愉楽であることは私も知っています)を考慮したうえでの選択であったのでしょう。
 簡潔明快かつ柔軟性に富んだシステムを提示することで、セッションを通じて表現される「ロールプレイ」や、世界観に則った「ストーリー」に目を向かせること。『ウォーハンマーRPG』というシステムの設計思想には、かような配慮がどこかしら含まれているものと、私は考えています。
 それゆえ、僅かながらルールを曲げてであっても、コンラッドというキャラクターを生き生きと表現できるとしたら、リプレイとしてはそれにこしたことはないのではないか、と私は判断したのです。


 「混沌狩り」キャンペーンに登場したプレイヤー・キャラクターの初期経験点は3200ですが、これは「魔力の風を追う者たち」に登場したプレイヤー・キャラクターが経験点2000よりキャンペーンを開始し、1セッションで400点の経験点を獲得し、終了時には経験点3200点で終わったことを、引き継いでいます。
 「魔力の風を追う者たち」と「混沌狩り」ではプレイヤーが共通しているので、急に運用感覚が変わることなく、あくまでも自然な形でキャラクターの引継ぎができるようにと、このような形にしたのですが、コンラッドというキャラクターを創る際には、まず「魔狩人」としての立場を確立することそのものが重要であったがゆえ、あえて異能の取り方を前後させたという次第です。キャリア変更については、例えば“WFRP COMPANION”(未訳)の第一章で、“CARNIVAL CAREERS”で、かなり柔軟な運用も可能だという一例が示されていますので、それほど無理な適用でもないものと思います。


 もちろん、ルールを可能な限り守るということは大事ですから、あくまでもこうした措置は最小限に留めています(GM裁量を取り入れたのは、このコンラッドの成長面、そして【運命点】の活用案、レジーナのクラスチェンジ程度です)。今回のコンラッドの措置については、OKを出したのは私ですから、当然、責任はプレイヤーの方ではなく私、岡和田晃本人にあります。
 そして、こうした措置について、雑誌掲載時、但し書きを設けそびれていたことに関しましては、ひとえに私の配慮不足に起因します。たいへん、申し訳ありませんでした。今後は、同様のミスを犯さないよう留意いたします。


 しかしながら、リプレイそのものは、プレイヤーの活躍の甲斐あって、大変満足のいく出来に仕上がったもの自負しております。当初の目論見以上にダイナミックな展開となり、限られた紙幅の中で、キャラクターの個性は引き出され、ストーリー的な深みも生まれました。
 少なくとも、私の用意したシナリオが、プレイヤーたちの奮闘によって何倍も魅力あるものとなりましたことは、間違いありません。既に一通り目を通された方も、ぜひもういちどリプレイ全体を読み直してあげて下さい。
 きっと、あなたのセッションがより彩り豊かなものとなるような、新しい発見があるはずです。