「SFマガジン」2015年10月号の「伊藤計劃特集」に、「伊藤計劃読者に薦める「次の10冊」ガイド【ノンフィクション】」を寄稿しました。

 「SFマガジン」2015年10月号の「伊藤計劃特集」に、「伊藤計劃読者に薦める「次の10冊」ガイド【ノンフィクション】」として、「SFの伝統に接続される現代社会の諸問題」を寄稿しました。容易に入手可能な本を集めた、やさしいガイドとしています。*1
 実際にどのような作品を取り上げたのか、ということに関しては、ぜひ雑誌記事の現物を見ていただけましたら。一つの基準としては、「伊藤計劃さんが実際に影響されていた著作ないし著者によるもの」、「できるだけ基礎的なもの」、「できるだけ新しいもの」としています。なお編集部からのオーダーで、割合としては日本人の著作と非-日本人の著作を半々としています。そのうえで、岡和田晃がこれまで書いてきた伊藤計劃論でのパースペクティヴとも符号するリストとなっているものと思います。伊藤計劃の代表作については言及できましたが、「屍者の帝国」関連文献については、事情が事情なので、今回は除いてあります。
 今回のリストを選定し、また『定本荒巻義雄メタSF全集 別巻 骸骨半島 花嫁 他』の月評「「世界にあけられた弾痕」にふれて」を寄稿した際にも、つくづく感じたことですが、すでに伊藤計劃伊藤計劃(作品)をめぐる議論は、狭い意味でのSFだけのものでも、また、いわゆる「サブカル」の枠に括って終わるものでもなくなっています。
 一部は文芸時評で取り上げることができましたが――例えば現在、「新潮」や「群像」といった主要文芸誌において、伊藤計劃のテクストが現代社会との関わりでシリアスに語られるようになっています。学術誌に長編評論も出て、その是非はあるにしろ伊藤計劃フォロワーとも言うべき(後発の)作家たちが少なからず登場しています。私自身もシンポジウムに参加したのでいささか手前味噌ですが、学会発表において「三島由紀夫以後、中上健次以後、伊藤計劃以後」というパラダイムも提唱されています。
 今後は、おそらく伊藤計劃のテクストを文学的・思想史的なパースペクティヴで読むというスタイルが、いっそう顕著になってくるでしょうし、カッコつきの「サブカル」とは縁のない人たちが、伊藤計劃の名前を出す機会も増えてくることでしょう。そこで問われるのは、彼のテクストをいかにシリアスに読み替えていくか、解釈や創造のための新しいアプローチを増やしていくか、ということに尽きるのではないでしょうか。今回の拙ガイドが、そのための一助となれば幸いです。

*1:ただし、『ルールズ・オブ・プレイ』上巻だけは新刊での入手が難しくなっているので、流通在庫や古書をあたっていただけましたら幸甚です。